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科学・テクノロジー その16「箪笥のような時計を腕に載せる クォーツ」


本 >私が初めて腕時計を持った高校生の頃は、確か「水晶時計」と呼んでいたような記憶があります。クォーツ時計の事です。当時は正確に1秒1秒を刻むステップ運針がカッコよくて、機械式の腕時計よりも高級に見えたものです。今ではクォーツ時計はどこででも手に入れられる、安価な時計となって、機械式の復権というか、超高級なものまで現れ、クォーツの「高級」なイメージは相当に薄れていますね。しかし、その登場は画期的なもので、1880年にクオーツ(水晶)の圧電効果が発見されます。圧電効果を超簡単に言ってしまえば、振り子のように規則正しい動きを繰り返す働きが、水晶などの結晶で起こる事です。水晶の切片(薄いかけら)に電気を通すと、その運動がとんでもない速さで起きます。一般的には水晶振動子は1秒間に32,768回振動するそうです。しかし、どんな水晶もそれだけの振動をするわけではなく、含まれている不純物や形状によって違ってきます。ですから、今のクォーツ腕時計には人工水晶を使って、正確に32,768回振動するように加工されたものを使っています。人工水晶とは、圧力により、水晶の成分である石英などを人為的に結晶育成したもので、人工といっても鉱物結晶としては本物の水晶です。

1921年に最初の水晶振動子が開発され、1927年にベル研究所で最初のクォーツ時計が製作されます。しかし、当時のクォーツ時計は構造上(真空管を使用)、箪笥並みの大きさであったようです。1959年に日本のセイコーが製作したクォーツ時計も、最初はまさに箪笥の大きさでした。その正確さで学術的な貢献はしたものの、今のクォーツ時計のように腕時計になり得るような代物ではありませんでした。日本のセイコーは早い段階からクォーツ時計に関心を寄せ、1958年からクォーツ時計の開発に取り組んでいたようですが、1964年の東京オリンピックでは壁掛け時計サイズ並みまで小型化した時計を大会公式時計として提供し、実用に耐え得る、その技術的水準をクリアしています。

しかし、箪笥並みの大きさから壁掛けサイズまでわずか数年でコンパクト化した技術は驚異的ですが、まだその重量は3kgであり、とても気軽に持ち歩けるようなものではありません。小型化の背景には1948年に発明されたトランジスタの技術がありますが、更なる小型化を図るためには、1960年代の半導体デジタル回路が安価に供給されるまで待たなければなりません。
    
そして1967年にクォーツ腕時計のプロトタイプが、スイスのメーカーと日本のセイコーにより登場します。しかし、超小型化は実現できたものの、さらに日常生活での「耐衝撃性」が求められる腕時計でとしての実用化にはハードルがまだまだいくつもありました。水晶発振子の小型化と省電力化。特に、この「省電力化」のためにセイコーが開発したのが「間欠運針型のステップモーター」です。これが、冒頭に書いた「1秒1秒を刻むステップ運針」です。機械式のように連続して動く(スイープ運針:1秒間に6振動、8振動、10振動と違いがある)のではなく、1秒ずつ動く秒針にすることで消費電力を抑えるというアイディアへと行き着きます。スイープ運動をするクォーツ時計もあるようですが、クォーツ時計といえばステップ運針です。セイコーは1969年、ついに世界初の実用的なクォーツ腕時計が登場します。すでにスイスのメーカーが翌年にクォーツ腕時計を発売すると予告していた中での、このセイコーのクォーツ腕時計発売は世界中を驚かせます。

世界初、第一号のクォーツ腕時計の名前は「クォーツ アストロン」。私も一応、腕時計好きですので、アストロンの実物は見た事がありますが、今でも通用する洗練されたデザインの腕時計です(2014年にはアストロンの名が復刻しています)。しかし、当時のその値段は45万円…。中型車並みの値段です。しかし、箪笥の大きさからわずか10年で、人の腕に巻き着けられるクォーツ時計が誕生しました。まさに、日本のコンパクト化、ダウンサイジング技術の本領でしょう。セイコーが特許権利化した技術を70年代に公開した事により、多くの時計メーカーがクォーツ時計を商品化し、世界に普及していきます。余談ですが、権利権利の現代より特許技術に対して寛容であった時代の方が、多くの技術を生活レベルにまでいちはやく普及させているように思います。インスタントラーメンも然り、50年代から70年代のアメリカも然り、です。
    
セイコーによりクォーツ時計が腕時計のスタンダードとなり、機械式時計の聖地であったスイスを始め、欧米の時計メーカーは大打撃を蒙り、特にアメリカの時計メーカーは全滅に近いような状態となりました。ここで有名な話があります。70年代からは「機械式時計の冬の時代」です。欧米の名門時計メーカーはその殆どが傾きかけます。その中で、クロノ・ムーブメント(多針時計の自動巻き駆動装置)の傑作、エル・プリメロが1972年に生産中止となり、開発していたゼニス社(当初はモバド社との共同開発)にアメリカ資本が入ってきて、以後、機械式から全面的にクォーツ時計の製造にシフトされます。その時に、不要となった機械式時計の設計図や道具類まで、その破棄が社命で出されます。

しかし、職人たちは密かに設計図や道具、パーツの型などを隠します。それが、80年代以降に「機械式時計」のブームが起こり、職人たちが隠しておいた設計図などのおかげで、エル・プリメロが復活します。余談ですが、私もごく初期のモバド製のエルプリメロを持っています。クォーツの技術も驚嘆すべきものですが、職人による機械式腕時計は「芸術品」と呼びたくなります。クォーツ時計の持つ「画一性」が飽きられたのでしょう。しかし、クォーツの技術は腕時計だけではなく、パソコンや携帯電話の中で活躍します。

繰り返しになりますが、かつては箪笥ほどもあったものが、人の腕に巻き付けられるほどの大きさとなった事は、人の持っている「力」の成せる技です。世界を向こうに回していち早くその成果を上げたセイコーのムーブメントは、同じく日本のシチズンのムーブメントと合わせて世界のシェアの半分以上を占めています。この技術力こそが日本の最大の財産であるというのは、もはや懐古的な表現なのでしょうか? いえ、そうは思いません。連綿と蓄積されてきた技術力、「もの作りの技」は今も変わらず、日本の底力であると思います。

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