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科学・テクノロジー その30「夢という想いを原動力に回る ロータリーエンジン」


本 「夢」という言葉をそれほど安っぽく扱う意図は毛頭ありません。それは誰しもが持てるものでありながら、往々にして「実現せぬもの」として、人のハートを動かすことも無くまさに「夢」として消えていく事の方が多いでしょう。しかし、その「夢」を持ち、その実現にそれを原動力として動かせることのできる僥倖を得られる人は、どれほどいるのでしょうか。ささやかなものであろうと、「革命」クラスのキナ臭いものであろうと、「夢」が人のハートに点火してその「エンジン」を回し始める機会に恵まれた人は、羨ましいほどに稀有なことであると思います。

前置きが情緒的に過ぎましたが、ここで書くのは、まさに人の「夢」が回し始めたエンジン、「ロータリーエンジン」のことです。もう10年以上は前になると思いますけど、かつて、中島みゆきの曲をテーマソングとし、独特のナレーションと構成で話題となったTV番組「プロジェクトX」でその開発物語を見た時、特に印象に残ったのが、研究開発チーム(のちにロータリー四十七士と呼ばれたそうですけど)の平均年齢が「25歳」であったという事です。すべからく「開発ストーリー」にはその原動力に「夢」「情熱」を感じますが、特にこのロータリーエンジン開発ストーリーには、そのメンバーの若さ故に、コアとなる原動力に「夢」というものを殊更強く感じてしまったのです。

私は瀬戸内海の某地方都市で育ちましたので「東洋工業(後のマツダ)のロータリーエンジン」というものはかなり身近に感じる存在でした。しかし、自分はまだ車に縁のない世代でしたので、特にそれが「どれほどのもの」かは正直、分かってはいませんでした。ですが、車に乗るようになり、そのロータリーエンジンなるものを改めて知った時、そしてその開発ストーリーを知った時、多少、感情移入してしまいました。地方の企業で「世界を向こうに回す」出来事が、自分のいたすぐそばで起こっていたとは…。私自身の車遍歴としてはクロスカントリータイプ(幌車)の4WDにドップリとハマっていましたので、ロータリーエンジン搭載車には縁がありませんでした。ただ、友人や知人が乗っていたファミリアやRX-7などに乗った時、その軽やかな吹け上がりとエンジンフィールに「これが、ロータリーエンジンってやつか…」と少々驚きました。

その回転はまるでモーターです。停車中のアイドリング時など、本当にエンジンが回っているのかと思いました。私はもっぱらクロスカントリー車の太いトルクが好きで、ディーゼルエンジン搭載の車に長く乗っていましたから、全く違うエンジンに次元の違いを強く感じました。まあ、それはそれだけの話なのですが、理系破綻者でも機械いじりは好きで、ディーゼルエンジンの構造を調べたり、車の足回りやパワーアップなどの改造(合法内)を楽しんでいました。車の工具は仕舞どころに困るくらい持っていました。車のメカに興味があり、自分なりに色々な車の事を趣味的に調べていました。ロータリーエンジンが搭載された小型軽量の4WDがあったら面白いと思いましたが、まあ、自分には縁のないエンジンです。如何せん、低速でのトルクが構造的に期待できない。エンジンをブン回して、ピーキーな車(クロスカントリー車)も面白いかなとは思いましたが。

余談はさておき、ロータリーエンジンですが、私たちはそれをプロダクツとして目にしますが、それを「作ってみろ」という場面に、もしいたとしたらどう思うでしょうか。理屈は分かる。NSU(後のアウディ)から送られてきた試作エンジンもあるが、とても製品化をすぐに期待できるようなレベルにはない。アイドリング時には激しく振動し、「カチカチ山」と揶揄されるくらいの白煙が上がる。エンジン内でオイルが大量に消費されるためらしい。ハウジング内部には致命的な波状摩耗(チャーターマーク:悪魔の爪痕)が起き、40時間程度でエンジンは停止してしまう。しかも、NSUとの技術提携の契約は、高額の契約金に加え、開発が成功した場合、販売する一台ごとにロイヤリティが発生し、開発に際して取得した特許は無条件でNSUへも提供する、という、誠に一方的なものであったといいます。

おそらく多くの人は、「こんなの止めた方がいい」と思うでしょう。私もそう言うだろうと思います。事実、開発は困難を極め、社内でも自動車業界内でも様々な批判や悪評が飛び交ったといいます。そんな状況で、若い開発チームのメンバーは何を思ったでしょう。いくら会社命令のプロジェクトとはいえ、とても報われそうもない仕事に、相当の時間と労力と資金を費やし、前述の問題に加え、次から次へと問題が生じてくる開発作業の中で、気が萎えそうになる者も少なからずいたと思います。しかし、そんな状況の中で、現実にロータリーエンジンは6年の歳月を要し、ついに世界では唯一、東洋工業(マツダ)はその量産に成功します。つまり、若い開発メンバーはやり遂げたのです。世界のどこの企業も成し遂げられなかったロータリーエンジンを、創り上げたのです。

確かに、開発の背景には通産省(現経産省)が主導する自動車業界再編成の中で、統合・合併の危機に晒され、それを打開するには「独自の技術」が必要だったという現実的な問題がありました。ちなみに、自動車業界に限らず、お役人がよく産業再編成といって大きなお世話をやりますが、それが功を奏した例を私はあまり知りません。東洋工業(マツダ)にはそうした動きへの反発も当然あったでしょう。とはいえ、そのためにロータリーエンジン開発を決断し、若い技術者たちがそれを成し遂げた事には、ただ「会社の命運をかけたプロジェクト」であったからと片付けられる事ではないと思います。そのプロジェクトを成功まで推し進めたのは、若いメンバーであるが故の「夢」と「情熱」が無ければ、とても実現は無理だったのではないかと強く感じます。事実、先に述べた「プロジェクトX」の中で、途方に暮れる若いエンジニアの姿が描かれていました。しかし、諦める気持ちはなかったようです。「何とかなる筈。解決の方法はある筈」といったようなナレーションが番組の中にあったように記憶しています。

開発物語の「夢」や「情熱」は予定調和的な要素、と言われそうですが、ロータリーエンジンの開発に携わっていたのは東洋工業(マツダ)だけではなく、世界中の企業が純粋研究のためのものも含めて行っていたのです。NSU(アウディ)はもちろん、トヨタ、日産、ダイムラー、シボレー、ロールスロイスや旧ソ連の企業など、世界中の企業が関心を持っていたのです。その中で、ただ一社、ロータリーエンジン搭載の自動車の量産にこぎつけたのは、平均25歳の若い研究開発チームを擁する東洋工業(マツダ)だけだったのです。世界のそうそうたる企業の中で、日本の決して大きくはない企業がその栄誉に輝いたのは、「経験」「知識」などではなく、世界を相手にしているという「夢」がそのコアにあったからではないでしょうか。とにかく未来に向かって突き進むのに必要な原動力は「夢」です。「経験」や「知識」自体に未来はありませんから。Wikipediaによれば、1985年までにロータリーエンジンの研究に携わっていた各メーカが開発した特許件数は、NSUが291件、ダイムラーベンツが299件、フォードが22件、そしてマツダが1,302件。未来へ向かう力が生み出したものでしょう。

残念ながら、低燃費エコの潮流の中で、その芸術的なロータリーエンジンの搭載車は2012年のRX-8を最後に市場から姿を消します。しかし、その研究はいまだ継続中であり、次世代の「夢」、水素ロータリーエンジンへと向かっています。終わらないのが「夢」です。未来へ向かおうとする力が「夢」です。それは「情熱」として人の強力な推進エンジンとなります。ロータリーエンジンはもう一度、その姿を現して、回り始めてくれるでしょう。

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