テキトー雑学堂 タイトルバナー

科学・テクノロジー その9「カブ 半世紀変わらない基本設計 原点」


本 「科学・テクノロジーその8 即席ラーメン」で、「半世紀余りもその基本設計が変わらない商品は、ホンダのスーパーカブくらいしか思いつきません」と書きましたが、まさにそれは「ものつくり」の原点です。「ものつくり」という言葉は平安時代からあり、その意は「職人」ということのようですが、私は平安の時代を考える時、そこにはただ単に「物を作る」というだけではなく、その技に対する「畏怖」「畏敬」の念があったのではないかと思います。自然の中から素材を切り出し、そして「物」という形に作り上げる。英語でいう所の "Figure" に近い感覚で捉えます。 "Figure" とは本来「人の形を模する(ちなみにフィギアスケートのフィギアはこの言葉)」という意味ですが、広い意味で「形を作り出す」という意味にも解せると考えます。「物を作る事」はまさに人の技です。

小林秀雄の「慶派(鎌倉時代の仏師、運慶、湛慶、快慶らのグループ)」について語る下りに、確か「その仏像は彫るのではない。自然の中に既に姿を現し、仏師はそれを求めて木屑を払うだけである」といった意の言葉があったように記憶しています。まさに、匠の目には、既に求めるものが見えているのでしょう。後は、それを取り出すための作業です。その姿は既に完成されたものであり、プロダクツという観点から考えれば、「完成に近い基本構造」が既に見えているという事でしょう。
    
ホンダのカブは最初、自転車に取り付ける「モーター(エンジン)キット」の愛称であったようです。戦後、旧帝国陸軍の小型発電用の2ストロークエンジンを流用して作ったものです。ちょっと驚いたのは、ホンダと言えば4ストロークエンジンの雄というイメージなのですが、最初は2ストロークエンジンからスタートしていたとは…。時代背景から考えれば部品点数も少なく、軽量という事で当然の事なのでしょう。余談。そのカブがやがてセミスクータ型の「スーパー・カブ」として誕生します。その登場時点でほぼ今の姿となっています。それ以後、エンジンの改良はあるものの、殆どその基本設計を変えずに今日まで生産され続け、ビジネスバイクの代名詞ともなり、今や若者向けにファッショナブルなカスタムモデルまで登場するに至っています。少し前、東南アジアの映像をTVなどで見ると、まさに「カブ」が怒涛の如くに道路を走り回っています。ちなみに、ベトナムでは「ホンダ」といえば「=バイク」の事であり、「ヤマハのバイク」が「ヤマハのホンダ…」になるとか。それほどまでにこのホンダのカブは「デファクト・スタンダード(事実上の標準)」とも呼べる存在であったようです。
  
ちなみに「カブ」とは "Cub" であり、猛獣の子供を指す言葉で、野菜の「蕪」でも博打金融証券の「株」でもありません。メジャーリーグのシカゴ・カブスのカブも "Cubs" で同じ意味です。ニューヨークのイエローキャブのキャブは "Cab" で、これはタクシーの事です。全くの余談でした。このホンダのカブはその名にふさわしく、姿からは想像もできないほどの頑丈さを持ち合わせています。都市伝説としては「ホンダのカブはエンジンオイルの代わりに天ぷら油を入れても走る」とか「ビル(まあ3~4階程度でしょうけど)から落とした後でもエンジンがかかる」というものがありますが、どうやら真実のようです。それほどに、機械的な完成度が高い設計なのでしょう。使用済みのフライ用油でも走ったそうです。まあ、長く走るとやはりエンジンには良くないでしょうけど。
   
ホンダの創業者である本田宗一郎の「ものつくり」の底力は既に、このカブから始まっていたのでしょう。有名な「マン島TTレース」などは、まさに日本のサッカーがW杯で優勝するのに匹敵するほどの快挙、奇跡です(日本サッカー界、がんばれ!)。しかし、本田宗一郎の面白い所は、当初のカブを営業から「エンジンキットではなく、50ccの完成車が欲しい」と要求された時、技術的な立場から「そんなものは作れない」と突っぱねておきながら、やがて50ccバイクに興味を持ち始め、自分の方から欧州の小型バイクを見ると「こんなのはどうか?」と営業に持ちかけ始めた事です。ある瞬間、「ものつくり」の魂にスイッチが入ったのでしょう。彼は「完成した形」を最初から描けない場合はそれを跳ねつけ、「それらしいもの」には見向きもしなかったのでしょう。故に、宗一郎の「ものつくり」に火が点いた瞬間から、半世紀を生き抜く「スーパー・カブ」の基本設計が生まれたのです。まさに、その目に、慶派の如く、「完成した形」が見えたのでしょう。あとはそれを取り出すために「木屑」を払っていくだけ。
    
今でこそ様々な原動機付自転車がありますが、私が最初に乗ったのはスーパー・カブでした。免許はまだ持っていませんでしたが、バイト先の建設現場敷地内ですから「公道」ではなく、無免許運転ではありません。細かい資材を運ぶのに必要でした。その時の感想は、初心者でも簡単に運転でき、十分な駆動力で建設現場の不整地を走る、驚くほどの軽快さでした。もともと、日本では1960年まで、50cc以下のバイクに免許は不要だったわけで、スーパー・カブはそんな、ある意味「ユーザーがおおらか」、もしくは「運転もいい加減」な環境の中で鍛え上げられた原動機付き自転車です。自動遠心クラッチとロータリー式変速機構(つま先で跳ね上げるのではなく、ペダルを前後に踏んで変速する方式)により、片手、草履履きでも運転でき、真偽の程は別にして、宗一郎が「蕎麦屋の出前持ちが、片手で運転できるように」と言ったバイクが出来上がった訳です。
  
ファッショナブルな原チャリが様々にある中、私は個人的にこのスーパー・カブが一番カッコ好いと思っていました。それは「完成されたプロダクツの持つフォルムの美しさ」です。今、スーパー・カブがファッショナブルなオプションで若い人にも人気があるのも、それがベースとなっているからだと思います。昔は郵便配達用の赤いスーパー・カブの払い下げ車を「赤トンボ」といって、マニアにはかなり人気がありました。本田宗一郎がホンダを去ったのは、自動車作りで宗一郎は「空冷」を主張していましたが、マーケットの趨勢は「水冷」に向かっており、それによって生まれた社内での方針の違いによるものという事らしいですけど、私は本田宗一郎に空冷の自動車を作ってほしかった。どれほどの車が生まれていたのか。誠に残念…。

科学・テクノロジー 目次へ



【商品検索】Powered by Amazon

↑「すべて表示」をクリックするとAmazon.co.jpの検索結果一覧に移動します。

■これからギターを始められる方のご参考にでもなれば。
木の音 バナー
「あれこれブログ風」サイト
「不思議」「怖い」「変」を普通に考える。 バナー
「花を楽しむ」サイト
花を飾る バナー


■サイトポリシー ■プロフィール
■お問い合わせ
ページトップへ戻る

Design by Megapx / Template by s-hoshino.com
Copyright(C) Ureagnak All Rights Reserved.